2022年10月2日
こんにちは。
橈骨遠位端骨折をご存知でしょうか?
歩いたり自転車に乗ってたりしていて転倒し、手首をついたときに生じることが多い骨折です。
高齢者に生じた橈骨遠位端骨折は骨粗鬆症に関連しています。
骨粗鬆症に関連している骨折は、その他に脊椎の椎体骨折、大腿骨近位部(太もものつけねの骨です)の骨折があり、そのうちの一つです。
今回は橈骨遠位端骨折について記載します。
橈骨(とうこつ)は前腕の骨です。
https://www.coastalorthoteam.com/blog/distal-radius-fracture-signs-symptoms-causes-and-treatment-options から引用。一部改変しています。
橈骨遠位端骨折は前腕の骨の一つである橈骨の遠位部、つまり手首あたりに生じた骨折です。
Jung HS, et al. Combined Approach for Intra-articular Distal Radius Fracture: A Case Series and Literature Review. Clin Orthop Surg. 2021より引用しています。
上の図は橈骨遠位端骨折のレントゲンです。
Aは橈骨遠位部を正面から見たレントゲン像、Bは横からみたレントゲン像です。
A,Bのレントゲン像ではともに橈骨遠位部に骨折線を認めています(横から見たレントゲン像は少し分かりにくいかもしれません)。
日本での疫学調査では橈骨遠位端骨折は人口10万人あたりの発生率は約108~140人です1)。
ちなみに川西市の2022年7月31日の人口は151190人となっています(川西市市役所のデータより)。
橈骨遠位端骨折の疫学調査による発生率から推計すると川西市では毎年162~210人に橈骨遠位端骨折が生じていることになります。
Ali, M. et al. Incidence of distal radius fracture in a general population in southern Sweden in 2016 compared with 2001. Osteoporos Int 31, 715–720 (2020). より改変して掲載しています。
上のグラフはスウェーデンの南部の都市に生じた橈骨遠位端骨折の患者数を表しています。
性別では、女性の方が多く、年齢は年を取るにつれて増加しています。
女性は50歳過ぎから患者数が増え始めていますが、男性は80歳を超えるまではそれほど急に増えていません。
橈骨遠位端骨折の原因ですが、高齢者の場合は、立っている状態からの転倒が多く、原因の49~77%を占めているとされています(橈骨遠位端骨折ガイドライン2017)。
Rundgren, J. et al. Epidemiology, classification, treatment and mortality of distal radius fractures in adults: an observational study of 23,394 fractures from the national Swedish fracture register. BMC Musculoskelet Disord 21, 88.2020 より引用。
上の表はスウェーデン人23394名の報告をまとめたものですが、そこには75%の人が単なる転倒が原因だったと報告しています。
つまり何らかの原因で転倒してしまい、あわてて手をついた際に骨折が生じてしまったということが多いということになります。
Arora et al. Aspects of Current Management of Distal Radius Fractures in the Elderly Individuals. Geriatric orthopaedic surgery & rehabilitation. 2. 187-94. 2011より引用。
上の図は右手の橈骨遠位端骨折に対して観血的整復固定術前後のレントゲン写真です。
骨折を生じると、必要に応じてこのように手術を行ったりギプスで固定したりして骨折部を出来るだけ元の状態に近くなるように治療をします。
ですが、高齢者の場合は骨折の治療だけでは不十分です。
一度、橈骨遠位端骨折が生じると、別の骨に骨折が生じてしまう可能性が非常に高くなっています。
骨粗鬆症を背景に生じやすい骨折としては、橈骨遠位端骨折以外に脊椎椎体骨折や大腿骨近位部骨折があります。
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/osteoporosis/symptoms-causes/syc-20351968より引用しています。
上の図にあるように脊椎(胸椎や腰椎)といった背骨の骨に骨折が生じる可能性が高くなります(矢印)。
https://orthoinfo.aaos.org/en/diseases–conditions/hip-fractures/より引用しています。
上の図は大腿骨頸部骨折のレントゲン像です。
特に大腿骨の近位部に骨折を生じる可能性が骨折歴のない人よりも3~6倍高くなるというデータがあります2)3)。
従って、骨の弱い方は、橈骨遠位端骨折の治療が終了しても、次の骨折を予防する治療を開始し、継続しておくことが重要です。
橈骨遠位端骨折を生じた方に対して積極的に骨粗鬆症の治療をすれば、特に大腿骨近位部の骨折を防ぐ可能性が高くなるという報告もあります4)。
橈骨遠位端骨折を生じた高齢者の方は、ぜひ次の骨折を予防するための検査及び治療を検討しましょう。
1)Sakuma M, et al. Incidence of osteoporotic fractures in Sado, Japan in 2010. J Bone Miner Metab 2014
2) Robinson CM, et al. Refractures in patients at least forty-five years old. A prospective analysis of twenty-two thousand and sixty patients. J Bone Joint Surg Am. 2002
3) Chen CW, et al. Incidence of subsequent hip fractures is significantly increased within the first month after distal radius fracture in patients older than 60 years. J Trauma Acute Care Surg. 2013
4) Shin YH, et al. Osteoporosis care after distal radius fracture reduces subsequent hip or spine fractures: a 4-year longitudinal study. Osteoporos Int. 2020